KGモーターズのビジョン

本記事は2023年4月30日に行われた「ミニマムモビリティプロジェクト・キックオフミーティング」にて、代表であるくっすんが話したKGモーターズのビジョンについてを文字起こししたものである。

キックオフミーティング

ビジョン:『移動の最適化で脱炭素社会を実現し、ワクワクで希望ある明日を作る』

電動化に向かう自動車業界

自動車業界が今後どうなっていくのか、どういう方向を目指すべきなのか、自分の考えを伝えておきます。

最近、「日本の自動車業界、ちょっと元気がないぞ」という声をよく耳にします。電動化に乗り遅れて、世界に対して負けるんじゃないか?という空気が蔓延してて、先日上海モーターショーもありましたけど、「日本メーカーの危機なんじゃないか」みたいな記事もたくさん目にしました。そんな中で、欧州では完全電動化の流れが「一部クリーンエネルギーの燃料であれば使っていいよ」みたいな話も出てきたりして、「ほら見たことか」と。電動化の流れに対して「やっぱりまだまだエンジンが必要なんじゃないか!」「エンジンなくしちゃダメだ!」っていう声が、日本にはまだまだあると思ってます。

で、これに対して僕がどう思ってるのか?というところなんですが、個人的には「今すぐ全てを完全なEVに移行する」っていうのは考えてないですし、そうあるべきではないと思ってます。ただ、日本人が何を言おうが、日本の自動車メーカーがどう思おうが、世界全体が完全EVにどんどんシフトしていくっていうことは、もう避けられないのかなと思ってます。

これがもし、 世界市場の90%のシェアを日本だけが握ってるとかだったら、ある程度コントロールできると思うんですけど、現実はそうではない。特に欧州、中国、アメリカは、今の日本が持っているシェアをひっくり返して、自国の利益を追求しようと思ってる。特に中国なんかは、世界最大の自動車市場を握ってる国ですけど、そこがひっくり返そうと本気出してきてるので、この世界的な流れに抗うことは、まず不可能なのかなと思ってます。

電動化とカーボンニュートラル

一方で現時点の電動化を見てみると、これはもう本当に環境のためなのかわからない。踏み込んで言えば、結局は政治的な理由だとか。自国の自動車メーカーを世界で勝たせるためにやってるっていう要素が多く含まれている。テスラとか中国BYDっていうところが、既存のガソリン車のスペックを電動車に置き換えてシェアを伸ばしてきている。これに対して自分が考えているのは、今の車を完全フル電動に置き換えていくことで、本当に脱炭素、カーボンニュートラルって達成できるのかなって思っています。

今、エンジン推進派の人たちはそこをめちゃくちゃ指摘してきているんですけど、あながちそれは間違ってなくて。結局EVっていうのは、作る時に非常にCO2をたくさん排出してしまう。これを踏まえてハイブリッド車なんかと比較すると、CO2の排出量が逆転するにはかなりの距離を走らないといけなかったりとかで、現実的ではないんですね。

さらに脱炭素の観点だけでなく、個人のコスト負担というところ。今、ガソリン価格は、政府が統制してるので、かなり安いところにキープされてますけど、車を走らせるエネルギーとしては電気代の方が優位性がある。ただ、電気代も上がってきていて、その優位性が薄れてきつつある中で、本当に全部EVにする必要性あるの?っていう空気感はさらに強くなるのではないかと思ってます。

個人的には今の車を全部電動車にしたら…例えば再生可能エネルギーとかうまくミックスさせることによって、全体的なCO2排出量を減らすことはできると考えているんですけど、カーボンニュートラル、もう完全にゼロとなると非常に遠いと思ってるんですね。

移動の最適化による脱炭素社会

で、そこで自分がずっと言っている考えにつながるんですけど、そもそも大きい車を全て電動化して走らせることに、どこまで意味があるのかっていう疑問なんですね。既存のガソリン車を全て電動化するより、小さい乗り物という選択肢があってもいいんではないかと思うんです。日本における自動車の使用実態って、約7割が1人の短距離移動なんですね。

利用実態

この使用実態にフィットするモビリティって少ないんです。だから僕らが理想の1人乗り小型モビリティを作る。

もちろん、全ての移動がそれで賄えるとは思ってなくて、あくまで選択肢のひとつとして必要だということです。ただ、選択肢のひとつだとしても社会的意義は大きい。その小型モビリティを電動化してみんなが使うことによって、今の電動化の流れより桁違いにCO2の排出を抑えることができると考えているんですね。これがKGモーターズが目指す「移動の最適化による脱炭素社会」です。

この「移動の最適化」というのはいろんな形があると考えています。例えばバスとかだと、40人乗りのバスに毎日40人が確実に乗るんだったら、それが1番最適な乗り物になるんですけど、 日本は人口が減少していってるので、それを成立させるのは難しい。だったら、パーソナルな1人乗りの小型モビリティをみんなが使った方がいい、っていう流れになると思うので、将来的には小型モビリティの必要度は増すと考えています。

世界一の小型車メーカーを目指す

今、世界中の自動車メーカーが電動化の流れの中で、収益性確保のために大きな車から電動化していっている。これはある種のセオリーだとは思います。ただ、 日本は軽自動車という独自の規格を見てもわかるように、小型車を大衆車として広めることをに長けてる国だと思ってるんですよ。そもそも国土も狭いですし、道も狭いところなのでそういった土壌がある。これからの自動車産業における日本の勝ち筋は、高級路線ではないと思ってるんです。どちらかというと大衆が必要としている車で、本当の意味での電動化、つまりカーボンニュートラルという流れの中で必要とされる車を作るべきだと考えています。

KGの役割はそれをより推進していくこと。これからの社会には小型車のEVこそが正義なんだっていう空気感を作っていくのが、我々の役目のひとつだと思ってます。

小型モビリティの必要性を証明し、世界一の小型車メーカーを目指す。これはただ車を作って売るだけだと成し遂げれない。作って売るだけではなくて、いろんな人が使いたい時に使える仕組みを作る必要がある。例えばシェアリングも将来的には取り入れていきたいなと考えています。シェアリングをより多くの人に、利便性高くコストも安く使ってもらうためには、やはり自動運転が深く関わってくると考えています。シェアリングも自動運転も小型だからこそできる優位性があります。ただ売るだけではなく、これらも含めて「移動の最適化」と考えていて、長期的にはそこを目指し脱炭素社会を実現する。そうすることで世界一の小型車メーカーになるつもりです。

ワクワクで希望ある明日を作る

「移動の最適化による脱炭素社会」について語らせていただきましたが、KGの作りたい世界はこれだけではなくて、実はもう1つあります。これはどちらかというと、企業の存在意義みたいなところなんですけど…まぁ、僕がこうしたいっていうある種の理想です。

それが「ワクワクで希望ある明日を作る」っていうことなんです。この中で海外とかに最近行かれた方がどれだけいらっしゃるかわからないんですけど…僕が十数年前にシーエルリンク(※くっすんが2005年に創業した会社)で、部品生産を始めた時に、海外の工場を色々見て回ったんですね。台湾、中国、タイとかアメリカとか…いろんなとこ行ったんですけど、1番衝撃を受けたのは初めて台湾に行った時にですね、夜市っていうのがあるんですけど…そこに、若い人たちがたくさんいてものすごい活気があったんですね。

日本で言うと、東京、渋谷辺りって若者たちがものすごいたくさんいるじゃないですか。ただ、当時の台湾ってまだ日本と収入とか格差ある時代だったんですけど、ものすごく輝いてるんですよ。もう顔の表情が全然違うんですね。日本は高度経済成長が終わってバブル崩壊して、失われた30年の中でずっとこう…将来に対して、「未来がこれから良くなるぜ」なんて思ってる若者ってほとんどいないですけど、台湾とか中国とかの人たちって、確実に今日より明日が良くなるっていうのを思いながら生活してる。そこが国としての活力に、ものすごく影響してるなっていうのを感じたんですね。僕はその体験から、日本という国が再びみんながワクワクして希望がある明日の活力を感じて生きるにはどうすればいいのかっていうのを色々考え始めてたんですけど、やっぱりヒントがですね、昭和の時代にあると思うんですよ。

活力がある日本を取り戻したい

昭和の高度経済成長の頃。あの頃って、戦後何もなくなって、日本が何もかも失って、それでも「頑張ろうぜ!」って言ってた時っていうのは、何もなかったけど、確実に今日より明日が良くなると誰もが信じてたんで、みんな希望に満ち溢れてたと思うんですね。それが1950年代から60年代。最終的にはバブルとかもあって、80年代後半まで日本の経済は伸びるんですけど、そこからずっと停滞して元気がなくなっている。僕はその時代の空気感を取り戻したいんです。オールウェイズ三丁目の夕日という映画があるんですけど、あの世界観が今の日本人にとって希望になるんじゃないかなっていう風に個人的には思ってて、自分たちがやる事業によって、日本が少しでもそういう風になったらいいなって思ってるんです。

じゃあなぜ日本がこんなに希望を持てなくなったかっていうとですね、これ、いろんな考え方があると思うんですけど、正直1番の要因は人口だと思ってます。

国民のレベルとか、組織自律だとか、学習の意欲だとか…経済の力っていろんなことが影響するんですけど、 世界の経済は今、中国が2位で、インドもどんどん上がってきて、みたいな感じになってるのは、基本的には人口ピラミッドにほぼ依存してるんですね。要は、人口がどんどん増えてる時は労働力が増えている。若い労働力がどんどん増えてる時期は、基本的に稼げるし、稼いだ人はお金も使うからどんどん経済が回る。で、人口減少時代に突入している日本は、もうそれが頭打ちになってしまった。もちろん、消費税増税とか他にもいろんな問題あるけど、基本的には人口の問題が大きく影響してると思ってます。

日本は課題先進国である

これ、何が言いたいかっていうと、今日本が直面してる課題、失われてってるっていうものは、少なからず今勢いがある中国とかにも訪れる時が来るってことなんですね。中国もやがては人口減少、高齢化社会に突入していく。日本が先頭になって苦しんでいることに、同じように世界も苦しんでいくと思っていいと思ってます。もちろん、今の新興国は、まだまだ伸びてる時期なので、もうちょっと先にはなるけど…結局のところ永遠に伸び続けるのっていうのは、永遠に人口を増やし続けることでしかないので、ほぼ不可能だと思うんですね。

なので、今の日本で「ワクワクで希望がある明日を作る」ということができれば、今は日本のことを考えての想いなんですけど、これができれば、やがては世界に波及していける。人口が減ろうが、労働力が少なくなろうが、GDPが減ろうが、どうすればワクワクした明日が作れるのか?っていったところを追求していきたいなっていう風に考えてます。

通勤とミニマムモビリティ

「ワクワクする明日を作りたいっていうのはわかったけど、どうすればいいの?」って思いますよね。イメージが湧きにくいと思うんで、 具体的な例で話そうと思います。

例えば、今自分たちがミニマムモビリティの販売で考えているペルソナ。どういった人をファーストターゲットとして乗ってもらうかを考えてるんですが、今回東京オートサロン、大阪オートメッセに出展して、量産に先立ってモニター車に乗っていただく人を募集したんですけど、申し込みがトータル5800件あったんですね。そのリストにリサーチして、何のためにモニターに申し込んだのか?自分たちのミニマモビリティをどういう使い方をしたいとユーザーは考えているのかを調べたところ、ユースケースとして多かったのがですね、通勤で使いますっていう人たちなんですよ。

通勤っていうのは、ほぼ毎日1人で決まった距離を走っている。先ほどの「移動の最適化」っていうことから考えると、1人短距離移動に特化したミニマムモビリティがハマるところなんですね。それが現状はデカい車で通勤して、CO2出しまくっている。その人たちが通勤だけでもミニマムモビリティを使うことによって、CO2って何万トンも削減できるんですね。まさに通勤というのはミニマムモビリティがフィットしてるっていえると思います。

車通勤コストに関する課題

しかし、どれだけ環境にいいですよって言っても、ユーザーのベネフィットがないと普及はしない。そこがコスト削減というところなんです。 車の通勤って電車通勤とかに比べると、会社からの費用負担っていうのも、基本的に少なかったりとかするので自己負担が大きいんですね。ガソリン代だけでなく、車検や税金などの維持費も自己負担になる。要は車通勤って公共交通機関に比べて、不当なコスト負担を強いられているんです。それを圧縮したいという強いニーズがあるんですけど、それを解決する最適な方法って実はないんですよ。まず公共交通機関は、日本全体で見ると地方は行き届いていないし、これからますます維持できなくなる。地方は車通通勤をせざるを得ない状況なんです。

車に代わる乗り物としては、例えば原付があります。ユーザーヒアリングをしていると、実際に車通勤コストを下げたい人たちは原付を買って試してはいるんだけど…実際に使ってみると、冬は寒くて夏は暑い。雨の日は濡れてしまうし危ない。これは全然乗れたもんじゃないとかって言って、結局車に戻っちゃう。つまり、人はどれだけ環境に良くてコストが安くても、快適でないものは定着しないってことなんです。

自分たちのモビリティは環境性能と低コストに加えて、快適性というところを重視してます。ある程度快適にストレスなく移動できる小型のモビリティって実はなくて、そこに価値があるのかなと思ってます。

ワクワクするモビリティの価値

少し話が遠回りしてしまったんですが、この通勤というのが先ほどの「ワクワク」っていうところに直結するんですね。CO2が減って、ユーザーのコスト負担が減るということは重要なことなんですけど、それ以上にですね、「毎日通勤するときにワクワクしてもらいたい」という思いがあるんです。

通勤って人によってはちょっと後ろ向きな思いがありますよね。今日は会社行きたくないなーとか、憂鬱だなーみたいなことがある人もいると思うんですが、ミニマムモビリティに乗って通勤することによってですね、みんなが ワクワクしながら「あ、楽しいな」と思って移動するというものを作りたいんです。みんなが毎日ワクワクしながら仕事に行って、生産性の高い仕事をして、ワクワクしながら家に帰ることは、日本にとってものすごい価値があると思うんです。

ワクワクっていろんな要素があると思うんですね。ただ乗ってて楽しいだけなのか、見たり眺めたりして楽しいのか… いろんな複合的な要素が出てくると思うんですけど、KGモーターズとしては、このワクワクの要素っていうものを存分に盛り込んだモビリティを作りたいと思っています。デザインはもちろん、設計やソフトウェアなどによる機能的なところ、音もですし、運転する楽しさとかも、全部にワクワクの要素を取り入れていきたいなと思ってます。これは誰よりも車が好きで、YouTubeでみんなをワクワクさせてきた自分だからこそできることだと思ってます。

ただ環境に優しくてコストが安いだけではない。日本を元気にするにはおもしろい乗り物を作ることが大事だと思ってます。ミニマムモビリティは通勤はもちろん、日常的に使ってもらいたい次世代チョイ乗りモビリティという位置付けなんですけど、この日常のちょっとした移動にワクワクしてもらうことで、世界中の人たちに、「今日より明日は良くなるな」って思ってもらいたい。これが今、KGモーターズが目指している作りたい世界なんです。

参考資料

環境性能1

環境性能2

コスト削減

アンケート結果

車通勤

デメリット

競合比較